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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2967号 判決 1965年10月20日

控訴人(原告) 有限会社大和不動産

被控訴人(被告) 中野税務署長・国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の予備的請求を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、つぎのとおりの判決を求めた。

第一、原判決を取消す。本件を東京地方裁判所に差戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二、予備的請求

一、第一予備的請求

(一)(1)  被控訴人中野税務署長は、控訴人に対し、熱海税務署長が昭和三五年六月二九日付および昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でなした控訴人の昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に対する法人税等課税決定および更正決定により納付すべき税額金一四三、二六〇円および金一三六、四五〇円は過大につきこれを取消す。

(2)  仮りに右取消請求が認められないときは、被控訴人国は、控訴人に対し、控訴人の右事業年度に対する法人税等の課税決定および更正決定により納付すべき税額金二七九、七一〇円の法人税租税債務が不存在であることを確認する。

(二)(1)  被控訴人中野税務署長は、控訴人に対し、熱海税務署長が昭和三五年六月二九日および昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でした控訴人の昭和三三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に対する法人税等の課税決定および更正決定により納付すべき税額金二〇六、六四〇円および金一三九、六四〇円は過大につき取消す。

(2)  仮りに、右取消請求が認められないときは、被控訴人国は控訴人に対し、控訴人の右事業年度に対する法人税等の課税決定および更正決定により納付すべき税額金三四六、二八〇円の法人税租税債務が不存在であることを確認する。

(三)(1)  被控訴人中野税務署長は、控訴人に対し、熱海税務署長が昭和三五年六月二九日および昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でした控訴人の昭和三四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に対する法人税等の課税決定および更正決定により納付すべき税額金七〇、一九〇円および金一四〇、五七〇円は過大につきこれを取消す。

(2)  仮りに、右取消請求が認められないときは、被控訴人国は、控訴人に対し、控訴人の右事業年度に対する法人税等の課税決定および更正決定により納付すべき税額金二一〇、七六〇円の法人税債務が不存在であることを確認する。

二、第二予備的請求

被控訴人中野税務署長は、控訴人に対し、熱海税務署長が昭和三二年ないし昭和三四年事業年度に対する法人税租税債権に基づき、控訴人の所有にかかる杉並区高円寺四丁目五七二番地の四、宅地一二三坪について、東京法務局杉並出張所昭和三七年二月二六日受付第三、八八四号をもつてした債務者を訴外共有者大河原幸作および同大河原貞子として、右両名の各持分二分の一に対する滞納処分による差押はこれを取消する。

被控訴人ら指定代理人は、控訴棄却の判決ならびに予備的請求に対し、本案前の申立として却下の判決を、本案に対し棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述、ならびに証拠の関係は、つぎに付加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

控訴代理人はつぎのとおり付加陳述した。

一、原判決は、「行訴法一四条三項は、同条一項によればなお出訴期間が経過していない場合でも、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、もはや出訴を許さないとする趣旨であるから、同条一項の適用ある場合には同条三項の適用なく、従つて同項但書の適用もないものと解すべきである。」と判示するが、右解釈は誤りで、同条は一項により出訴期間が経過していない場合は、処分又は裁決の日から一年を経過したときでも出訴することができる趣旨と解すべきである。

二、原判決は、「控訴人の中野税務署長に対する訴は不適法であり、熱海税務署長の課税処分がもはやその効力を争い得ないものである以上、国に対する請求も理由がない。」と判示している。控訴人の国に対する訴は、公法上の債権関係に関する当事者訴訟であるから、行訴法三六条により「当該処分又は裁決に続く処分により」すなわち租税滞納処分により損害をうけるおそれがある場合には、いつでも出訴できるものである。熱海税務署長の課税処分は行政処分であるから公定力はあるが既判力はない。それ故訴訟において更に争うことができるものである。けだし租税訴訟において、本件のような当事者訴訟が許されると出訴期間の定めが無意味になるとの主張もあるが、税務署長の賦課処分に対する争いと、租税債権の成立に対する争いとは同一のものでないからである。そして本件租税債権については、熱海税務署長は、滞納処分として右債権に基づいて差押手続をしている。

三、原審は、控訴人が昭和三八年一〇月二三日付弁論再開申立書および同日付の請求の趣旨および原因の追加による訴変更の申立書を受理しなかつたが、右訴訟手続は違法であり、従つて原判決は取消されねばならない。

四、予備的請求原因としてつぎのとおり述べた。

(一)  控訴人は、杉並区高円寺四丁目五七二番の四宅地一二三坪(以下本件土地という)を昭和二六年一二月二八日から所有し登記を経由している者である。

(二)  ところが熱海税務署長は、控訴人に対し、昭和三二年ないし昭和三四年事業年度に対する法人税租税債権合計金八三六、七五〇円(以下本件租税債権という)を有するとして、たまたま本件土地が大河原幸作および大河原貞子の各持分二分の一の所有名義となつていたのを利用して、右両名を本件租税債権の第二次納税義務者である債務者として、東京法務局杉並出張所の昭和三七年二月二六日受付第三八八四号をもつて、右両名の各持分二分の一に対し滞納処分による差押の登記をした。

(三)  しかし、本件土地は、控訴人の所有に属するものであるから、債務者を右両名とする差押処分は違法であると共に、本件租税債権は不存在であるから、右差押処分は控訴人に対しても違法であるから取消されなければならない。しかし現在本件土地について東京国税局が控訴人から同局に右大河原両名の所有名義の抹消登記の承諾を求めても、承諾しないため、控訴人は東京法務局杉並出張所の昭和三八年九月二八日受付第二六三六九号をもつて、控訴人の所有権登記の回復の仮登記をした。

(四)  被控訴人らは、控訴人の本件土地についての権利が、仮登記により保全されているに過ぎないから、被控訴人らに対し対抗できないと主張するが、これは誤りである。すなわち

(1) 本件土地の登記簿謄本(甲第四号証)により明らかなとおり、甲区一番の訴外大河原房次郎から控訴人への所有権移転登記が、甲区二番の一番所有権移転登記抹消登記により抹消され、甲区四番のとおり大河原幸作と大河原貞子らがその先代大河原房次郎から相続により取得し、ついで現在甲区一一番の「四番所有権移転登記抹消の仮登記」によつて大河原幸作及び貞子が本件土地の所有名義を喪失し、甲区一二番のとおり控訴人が一番所有権移転登記回復の仮登記により本件土地の所有名義を取得した。

(2) 右のような登記手続がなされたのはつぎの事情による。

控訴人は控訴人所有の本件土地を含む杉並区高円寺所在の土地六、一四〇坪の借地人から、昭和三五年有限会社解散命令を申請された。その理由は、控訴人が昭和二六年に訴外大河原房次郎から右六、一四〇坪を買受けたことが、訴外大河原幸作及び貞子が相続税脱税の目的のためにしたことであり、かつ、控訴会社は右買受けを唯一の目的として設立されたから、会社設立の目的が公序良俗に反すると言うのである。そこで控訴人は自発的に右土地を大河原幸作及び貞子に返し相続税を納付させようとして、昭和三五年一〇月六日売買契約を合意解除した。ところが右大河原らに相続税脱税の事実がないことが判明したので、右合意解除は要素の錯誤により無効となつた。控訴人と右大河原らは、昭和三八年七月一〇日中野簡易裁判所において起訴前の和解をなし、本件土地を含む六、一四〇坪が控訴人のものであることを確認し、甲区二番の昭和三五年一〇月一一日受付第二五八二六号所有権移転登記抹消登記の抹消登記および大河原らの相続登記の抹消登記をして控訴人の所有登記名義を回復することになつた。ところが被控訴人が抹消登記を承諾しないため、回復のための仮登記手続をするに至つたものである。

以上のとおりであるから、控訴人は仮登記をもつて被控訴人らに対抗できる。

五、被控訴人らの本案前の答弁に対し

(1)  控訴人の本位的請求と第二予備的請求の関係は、(イ)行訴法一三条二号の、当該処分とともに一個の手続、すなわち課税処分および滞納処分という一個の徴税手続を構成する他の処分の取消の請求の関係にある。(ロ)また同条五号の当該処分の取消を求める他の請求の関係にある。(ハ)また同条六号のその他当該処分の取消の請求と関連する請求の関係にある。いずれにしても関連請求に該当する。

(2)  被控訴人は、控訴人の請求は行政不服の申立手続を経ていないと主張するが、本件は行訴法八条二項二号の「処分の執行より生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当し、右手続を要しないものである。また被控訴人は控訴人が異議申立をしたら、これを認容する用意があるというのであろうか。異議申立を棄却すること明白であるのに異議申立をせよというのは無意味である。

(3)  行訴法一三条但書、一九条一項後段には、本位的請求が高等裁判所に係属している場合について規定しているが、本件控訴は差戻判決を求めているのであるから、訴訟判決について控訴審に係属しているのみで、実体請求については控訴審に係属しているものではない。従つて、本件実体請求は、実質上第一審に係属中である。したがつて、控訴人は本件予備的請求を適法に追加することができる。

以上のとおり述べた。

(証拠省略)

被控訴人ら指定代理人は、つぎのとおり付加陳述した。

一、控訴人の第二予備的請求に対する答弁として

(一)  本案前の答弁

(1) 本件控訴人は、滞納処分の相手方でないから当事者適格を有しない。すなわち右滞納処分は控訴人に対してなされたものではなく、国税徴収法第三九条に基づく第二次納税義務者たる訴外共有者大河原幸作同大河原貞子に対してなされたものであるから、控訴人がその取消を請求することはできないのである。なお、右両名が訴を提起するとしても、大河原幸作について言えば、滞納処分に対して不服申立をしておらず、また大河原貞子は審査の請求をしているが、これに対する審査決定は昭和三七年一一月一七日になされており、その後出訴期間内に訴を提起していない。

(2) 控訴人の本位的請求は、課税処分の取消を求めるものであるに対し、本件訴はそれとは全く別個の課税処分に基づく別個の処分である差押の取消を求めるものであつて、関連請求にあたらない。のみならず原告は法定の行政不服申立手続を経ていない。よつて本訴は不適法である。

(3) かりに、関連請求にあたるとしても、本位的請求は控訴審に係属しているのであるから、被控訴人らの同意を要するところ被控訴人らは同意しないから併合は許されない。

(二)  本案の答弁として

(1) 控訴人主張の本件土地が控訴人の所有であることならびに控訴人の錯誤の事実は否認する。

(2) 熱海税務署長が控訴人に対し昭和三二年ないし昭和三四年事業年度についての法人税債権を有すること、大河原幸作外一名に対して右租税債権に基づき第二次納税義務を課したこと、および、本件土地につき右両名の各持分二分の一に対し東京法務局杉並出張所昭和三七年二月二六日受付第三八八四号をもつて滞納処分による差押の登記をしたことは認める。

(3) 本件土地について、控訴人主張のとおりの回復登記の仮登記がなされていることは認める。本件差押は右仮登記より先になされているから控訴人は差押債権者である被控訴人らに差押の取消を求めることはできない。と述べた。

(証拠省略)

理由

一、当裁判所は、控訴人の本位的請求および第一予備的請求について、つぎに付加するほか、原判決の理由と同一理由により控訴人の本訴請求は理由がないものと認めるので、原判決の理由を引用する。

(一)  控訴人は、課税処分(更正決定をも含む)が、出訴期間の点で不適法なものとして却下を免れないとしても、課税処分による租税債権に基づき滞納処分により損害をうけるおそれがある場合には当事者訴訟として租税債務不存在確認の訴を提起できると主張し、被控訴人国に対し租税債務不存在確認の訴を提起している。しかし控訴人は課税処分等が過大で取消さるべきものであるから租税債務が不存在であると主張するのであるが、課税処分等がすでに取消され得ないものである以上、これを前提とする租税債務の不存在を主張し得ないことはいうをまたないことである。

(二)  控訴人は、原審が弁論再開の申立ならびに請求の趣旨および原因の追加による訴変更申立を受理しなかつたのは、原審訴訟手続に違法があるものと主張するが、記録によれば、訴変更の申立は、原審口頭弁論の終結後、弁論再開の申立と同時になされたものであるから、弁論が再開されなければこの申立を述べる機会はなく、弁論を再開するか否かは裁判所が職権で自由に判断すべき事柄であり、原審が控訴人の再開申立に応じなくても、これを目して訴訟手続に違背ありとはいえない。

二、控訴人の第二予備的請求について

(一)  控訴人の本位的請求は、控訴人に対する課税処分の取消請求ならびに控訴人の租税債務の不存在確認請求であり、第二予備的請求は、第二次納税義務者に対する租税債権に基づき、控訴人の所有であるという物件に対する滞納処分がなされたことを理由とする取消請求である。そして控訴人は右の二者は関連請求であると主張し、被控訴人らは関連請求でないと争う。

課税処分と滞納処分とは、それぞれ別個の効果を目的とする独立の処分であるから、賦課の違法をもつて滞納処分を違法とすることはできない。しかし第二次納税義務は第一次納税義務に付随するものであつて、第一次納税義務が課税処分等の取消により消滅すれば、第二次納税義務もなくなるわけである。したがつて、第一次納税義務者が課税処分等の取消の訴訟を提起し、それにより課税処分の取消の判決があれば、第二次納税義務者に対する滞納処分は違法な処分ということになり、しかも本件控訴人の予備的請求は滞納処分の目的物件が控訴人の所有であることを原因として滞納処分の取消を求めているのであるから、控訴人の第一次納税義務の発生原因である課税処分等の取消の請求と、右滞納処分の取消請求とは関連請求にあたると解すべきである。

(二)  被控訴人らは、仮りに第二予備的請求が関連請求にあたるとしても、本位的請求は控訴審に係属しているから被控訴人らの同意を要するところ被控訴人らは同意しないから併合は許されないと主張する。

行政事件訴訟法第一九条第一項によると、関連請求に係る訴を併合して提起する場合、当該取消訴訟が高等裁判所に係属しているときは、関連請求に係る訴の被告の同意を要する。本件の本位的請求である取消訴訟は当高等裁判所に係属しており、被控訴人らが同意しないのであるから、第二予備的請求は併合の要件を欠き不適法なものであつて、却下を免れない。

また国に対する租税債務不存在確認の訴と、控訴人の第二予備的請求との関係も、右と同一理由により併合の要件を欠くものである。

したがつて、その余の判断をまつまでもなく、本件予備的請求は併合の要件を欠き不適法なものとして却下さるべきである。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、当審における控訴人の予備的請求は不適法として却下すべく、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 千種達夫 渡邊一雄 岡田辰雄)

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